2.5.本牧岬編：三渓園・八聖殿周遊
2.5.1.要点
この案内で取り上げる範囲は外国人遊歩道の南側、本牧半島の先端部です。
新編武蔵風土記稿(*1)に記される久良岐郡本牧領は、現在の横浜市中・西・南・磯子・港南区一帯に及ぶ広範な地域です。その中心の本牧本郷村は、村内に六か村(*2)があります。明治22年に本牧本郷・北方村が合併して本牧村になり、明治34年に本牧村が本牧・北方町に分割して横浜市に編入されます。
現在、本牧町1・2丁目が存在しますが、単に本牧と云えば明治34年の本牧町の範囲、あるいは北方町の一部を含むように思います。
東京湾に突き出た半島は半農半漁の住民が多く、昭和時代の中頃までは海水浴が楽しめました。
半島は風光明媚、明治の政治家・実業家の別荘が連なります。三之谷に豪商・原三渓が造園、今は市民の憩いの場である三渓園があります。その東側に実業家政治家・小野光景別邸、今は公園です。公園内の政治家・安達謙蔵建立の八人の聖人を祀る八聖殿は、郷土資料館です。
海は埋立られて工場地帯ですが、別荘跡を結ぶように本牧市民公園が造園されています。かつてペリー提督が見て横浜村へ舵を切った海蝕崖、本牧塙(条約岬・Treaty Point)も見られます。
路上観察と言わずとも、半日・一日を楽しめる横浜の名所です。
2.5.2.案内図
1.参照用 ：Web参照用
2.5.3.主要データ
1.起点・終点 ：横浜市営バス本牧バス停()
2.距離 ：約3.9km
3.歩行時間 ：3.5～4.0時間(三渓園で1.5～2.0時間、八聖殿で0.5～1.0時間）
4.高低差 ：36m(最高：40m(三渓園展望台)、最低：4m）
5.休憩場所 ：休憩は三渓園、本牧市民公園、八聖殿
お手洗いは三渓園、本牧市民公園、八聖殿
6.備考 ：・起点・終点を八聖殿至近の本牧車庫前バス停、本牧市民公園前バス停利用も可能です。
・三渓園は有料、入園したら園内案内図を入手してください。
・三渓園ホームページ
・八聖殿ホームページ
・本牧市民・臨海公園オフィシャルサイト
2.5.4.見所
三渓園は、大池周辺の一歩ごとに移り変わる景色、散在する古建築などの全てが見所です。かつて足下を波が洗っていた展望台からは大きく変化した埋め立て地、遠くなった根岸湾を観察して下さい。
横浜市民公園は、通常の路上観察になります。連なる海蝕崖に注目、本牧由来記念碑では海を手放した漁師たちに思いを馳せます。
小野光景別邸跡は、案内を一読して明治の実業家の一端を知ります。八聖殿は、著名な彫刻家が一人一体を制作した聖人像、他に曰くある聖観世音菩薩像も忘れませんように。
2.5.4.1.三渓園
横浜を代表する観光地、市民憩いの場です。造園主の原三渓は日本美術に造詣が深く、若い芸術家を庇護するなどして、大観、観山など後の大家を育てました。
入園したらまず案内図を入手、次に花の開花状況を掲示で知ります。池泉回遊式日本式庭園は四季を通じて美しく、大池周辺の一歩ごとに移り変わる景色、散在する古建築の全てが見所です。
池を見ながら丘上の三重塔に気付いく筈ですが、丘上にも上りましょう。三重塔を見て、展望台まで進みます。昭和時代の半ばまでは足下から海原が広がり房総半島が見えましたが、今は埋立地に工場群が広がり、遠くなった根岸湾を見て時の移り変わりに思いを馳せます。
丘を下り、かつて内苑と言われた原家の私的空間も今は見学可能で、とっておきの古建築を観察します。最後は南門から出ます。
2.5.4.2.本牧市民公園
北側に連なる海蝕崖は、多摩丘陵が海に落ち込むところです。下側から基盤・下末吉層・関東ローム層の重なりが視認できます。
この辺りは、昭和30(1955)年代に埋立が始まる以前は海でした。公園の中ほどにある海に生きた人々が建立した「記念碑」に、その思いが記録されているので一読します。
2.5.4.3.本牧臨海公園
近代横浜の形成に大きな足跡を残した明治の実業家・政治家である小野光景の別荘跡です。「小野光景別邸跡」碑と、往時の様子を示す案内板で偉業を偲べます。
2.5.4.4.本牧鼻(八王子鼻)
八聖殿のある辺りが八王子山、海から見える崖が本牧鼻、歌川広重「武蔵本牧塙(*3)」が描いています。崖に付けられた階段を下ればかつての八王子海岸、往時の地形ではありませんが俤はあります。
1938(昭和13)年測量の海図「横濱付近」では、「本牧鼻(八王子鼻)」と表記されています。
ペリー提督来航時、直ちに江戸湾東岸の海図作成を命じます。完成した海図に記録された“Point Treaty(条約岬)”は本牧鼻として良いでしょう。幕末には、海防のため付近に鳥取藩陣屋が置かれます。
2.5.4.5.八聖殿
かつての小野光景別邸跡です。開殿時は八聖人像が安置された精神修養道場です。像は往時の高名な彫刻家が制作、今も安置されています。別に聖観世音立像も安置されています。
八聖人とは誰か、一人一体の制作者は誰か、また聖観世音立像が加わったのは如何なる理由を確かめます。
八聖人は二階に安置されています。全体は郷土資料館で、かつて市内で使われていた農具・漁具を中心にした民俗資料が展示され、在りし日の横浜の生活を彷彿させます。
2.5.4.6.本牧元町周辺
丘裾のバス通りが旧海岸線です。周辺は細い路地が入り組んでいて、かつて漁師町であったことが偲ばれます。
本牧南小学校の反対側路地を入った所に「おはちおうじさま」碑、かつての村人たちの厚い信仰が偲ばれますが、今は本牧神社に合祀されています。
一つ先のハーフティンバー様式の洋館「旧バーナード邸」(*5)は非公開です。1937(昭和12)年にイギリス人貿易商C.B.バーナードの息子E.V.バーナードが建てます。
4.引用
*1 「新編武蔵国風土記稿」 編集校訂：蘆田伊人 発行：雄山閣 平成8年6月20日
*2 「本牧のあゆみ」 編集:本牧のあゆみ研究会 発行:新本牧地区開発促進協議会事業部 1986年6月27日
*3 「日本・本州南岸・東京海湾・京濱港・横濱付近(部分)」 昭和13年測量、昭和14年諸資料追加
*4 「Honmoku Point in Musashi Province」 Utagawa Hiroshige 1858 from Digital Public Library of America
*5 「都市の記憶」 企画編集：横浜市都市整備局都市デザイン室 発行：横浜市歴史的資産調査会 平成19年2月
（2025年8月16日制作）