2.地域の特徴
2.1.本牧とは
2.1.1.中世の本牧周辺の地形
新編武蔵国風土記稿(*1)に記録される久良岐郡本牧領は、現横浜市の中・西・南・磯子・港南区に及ぶ広範な地域です。中心は本牧本郷村(本郷村)で、現在本牧と称される一帯に概ね相当します。
横浜市の海岸線は埋め立てが進み、自然海岸は野島(金沢区)にわずかに残るだけです。本牧周辺も例に漏れません。歴史に踏み入る場合は、埋立前の地形を把握しておくと理解が進みます。
横浜市の埋立の嚆矢は、現関内地区の南西側に広がる吉田新田で、1656年(明暦2年)に工事が開始されます。よって中世まで時間を遡ると、埋立前の地形(*2)が確認できます。
吉田新田は古大岡湾の埋立ですが、湾の南側の東京湾に突出した小半島が本牧岬です。岬は下末吉台地の南東端で、横浜湾と根岸湾を分ける標高30～40mの台地です。
*1 「新編武蔵国風土記稿第４巻」 編集校訂：蘆田伊人 発行：雄山閣 平成8年6月20日
*2 「対話で学ぶ江戸東京・横浜の地形」 著者：松田磐余 発行：之潮 2013年12月
2.1.2.平子郷
本目(本牧)の初出は、平子牛法師丸に宛てた伊勢宗端(北条早雲)・北条氏綱連署による永正9(1512)年12月6日「本目四ヶ村制札」と云われます。この四ヶ村のうち本牧本郷・根岸村は確かで、残るは石河村・堀之内村と推定されます。いずれにしろ16世紀頃には、本目が認知されていたことになります。前掲の図には、平子郷の主な地名を追記してあります。
平子氏は、伊勢宗端・北条氏綱連署の制札に現れて以降、武蔵関係の史料に現れません。
1524(大永4)年、北条氏綱が武蔵国江戸城を攻略すると武蔵南部は北条氏の支配下になり、氏綱の子氏康は現横浜市域の支配を強化します。久良岐郡の有力寺院も同様で、平子氏の菩提寺であった賓生寺に下した1545(天文14)年の判物は、平子郷でなく本牧郷石川村となっています。
*3 「鎌倉御家人平子氏の西遷・北遷」 編集・発行：横浜市歴史博物館 平成15年(2003)10月17日
2.1.3.本牧本郷
本牧領の中心が本牧本郷です。本郷には、郷の中で最初に開けた土地あるいは中心の意味ありますが、広大な本牧領の中心にしては位置が少し偏っているようです。
しかし舟運を利用すると、神奈川辺りからは便利だったことでしょう。描かれたのはは後のことですが、北斎「賀奈川沖本杢之図」、広重「武蔵本牧のはな」などは、それを想像させます。
本牧本郷の中に小さな村(*4)があります。明治22年には本牧本郷・北方村が合併して本牧村に、明治34年には本牧村が本牧・北方町に分割して横浜市に編入されます。現在は本牧町1・2丁目が存在しますが、単に本牧と云えば明治34年の本牧町の範囲として良いでしょう。ときには北方町の一部を含む場合があるのは、これまでの経緯によるものでしょう。
*4 「本牧のあゆみ」 編集:本牧のあゆみ研究会 発行:新本牧地区開発促進協議会事業部 1986年6月27日
2.1.4.横浜実測図に見る本牧
明治14年の横浜実測図に本牧の範囲を示したのが右図です。現本牧周辺は埋立が進んで自然海岸は無くなりましたが、まだ手付かずの埋立て前の様子が分かります。
風光明媚な地であり、広重や北斎が描き、明治期の政治家・実業家などが別荘を構えるのもうなずけます。
*5 「横浜実測図」 内務省地理局測量課 明治14年
2.1.5.横浜市制施行時以降の本牧
1889(明治22)年4月、久良岐郡本牧本郷村は本牧村大字本牧本郷となり、久良岐郡北方村は本牧村大字北方となります。久良岐郡本牧村は右図(*1)の東側に位置します。
1901(明治34)年4月、本牧町は久良岐郡本牧村大字本郷から新設されます。
1927(昭和2)年10月、横浜市の区制施行で中区本牧町になります。
1928(昭和3)年9月、本郷町は、本牧町の一部から新設されます。
1933(昭和8)年4月、本牧十二天、本牧元町、本牧大里町、本牧三之谷、本牧満坂、本牧和田は、本牧町の一部から新設されます。
間門町(平成6年廃止)は、本牧町・根岸町の各一部から新設されます。本牧緑ヶ丘は、本牧町・根岸町の一部から新設されます。
本牧荒井は、本牧町・根岸町の一部から新設されます。
1986(昭和61)年7月、本牧和田は、本牧荒井・本牧三之谷・本牧町・間門町の各一部を編入されます。本牧宮原は、住居表示施行に伴い小港町・本牧十二天・本牧町の各一部から新設されます。本牧原は、住居表示施行に伴い錦町・本牧三之谷・本牧十二天・本牧町・本牧元町・本牧和田の各一部から新設されます。
1994(平成6)年9月、本牧間門町は、住居表示施行に伴い本牧三之谷・本牧町,間門町の各一部から新設されます。
1945(昭和20)年9月、第二次世界大戦の敗戦により進駐した連合国軍により町の中心部が接収されます。
1965(昭和40)年以降、、海岸の埋立完工に伴い、千鳥町(1965年1月)、豊浦町(1967年11月)、錦町(1967年11月)、本牧ふ頭(1968年8月)、かもめ町(1969年7月)が誕生します。
1982(昭和57)年3月、36年間に及ぶ接収地の返還が決定されます。
*6 「横浜の町名」 編集・発行：横浜市市民局総務部住居表示課 平成8年12月
*7 「わかるヨコハマ」 編集：横浜市教育委員会・神奈川検定協議会 発行：神奈川新聞社 2009年6月
(2019年7月28日制作)