07.坂ノ下御霊神社

由緒沿革　当社の創立については詳らかではないが、御霊信仰の思想と鎌倉地方開発の跡を考えあわすと、平安末期には存在していたものと思われる。祭神・鎌倉権五郎景正公は、桓武天皇の子孫で平家一門であるが、当時関東では大庭、梶原、長尾、村岡、鎌倉の平氏五家があって、これら先祖を祀る神社として五霊神社が建てられ、その五霊が御霊にかわり、いつしか祭神も景正公一柱になったものと考えられる。 　権五郎景正公の事は『奥州後三年記』（南北朝時代に書かれた絵巻物）に書かれて居り、その武勇、廉恥の物語は有名である。景正公の領地は大庭の御厨（現在の藤沢市鵠沼あたり）を中心にして、その飛地は坂ノ下から長谷の一部にまで及び、当社の祭神が景正公一柱になったのも当地の領主であったからであろうと思われる。（文学博士、中村孝也氏の研究、及び市史より転記） 　鎌倉時代には幕府の崇敬も摩く、『吾妻鏡』文治元年（一一八五）八月二十七日の条には、御社殿が鳴動して頼朝の参詣があり、願書を奉納し、巫子等面々に賜物があったという。又、建久五年（一一九四）正月四月の条に、御奉幣を遣わしたとあり、同年十一月二十一日の条には、御霊社の前浜にて千番の小笠県があり、和田義盛が奉行したとある。更に建保三年（一二一五）六月二十日、建長四年（一二五二）十一月十七日の条にも記事がある。 　現在の社殿は明治四十五年改築されたものである。境内には手洗鉢（元禄十三年・一七〇〇）、石燈龍（文政七年・一八二四）、石造鳥居（嘉永三年・一八五〇）などがある。別当は成就院であった事が『相模風土記』に見える。元村社で坂ノ下区の氏神社である。

○御靈社　鎌倉權五郎景政が靈を祀ると云ふ、土人は五靈社と唱ふ　按ずるに此神主小池氏の舊記に據るに、桓武天皇の後胤、平良兼四世の孫を、村岡五郎忠通と　云ふ、忠通五人の子あり、一男爲通、二男景成、三男景村、四男景通、五男景政と號し、五人五家に別る、忠通卒して、五家々門榮盛の爲に、鎌倉に一宇を草創して、忠通の霊を祀る、故に五靈宮と唱へ、其後五家の祖をも合祀して、是を御靈尊と　崇むとなり、土人の五靈と唱るは、此によれリ、叉扇谷葛原岡、及び梶原村にも、古昔此社ありと云ふ、葛原岡の里老の話に、昔梶原景時が先祖鎌倉權守景成は、鎌倉并梶原村邊を領しける頃、此葛原力岡も、梶原村の地にして、其頃迄は名もなき軍原にて有しが、權守景成は、桓武平氏にて、葛原親王よリ出たれば、其親王菅氏神に崇め奉り、宮社をいはひ、葛原の宮とも、御靈社とも稱し、此岡に鎮座なし奉りけり、文字は同じけれど、唱を替て、くつは方の御靈社と申せしなり、 梶原村へ移してよりは、御靈の社とのみ唱ふ、されば社號は御靈權現にて祭神は葛原親王を崇め祀れるなり、又其後鎌倉權八郎景経が代に至り、權五郎景政が靈を、御靈社に合せ祀れりと云へど、今葛原岡・梶原村共に其遺蹤を傅へず、且神主の舊記、里老の口碑、其據どころ無に非ざれど、［保元物語］を閲するに、義朝白河殿夜討の條に、大橋平太、同三郎懸出名のりけるは、御先祖八幡殿、後三年の御合戰に、鳥海城を落されし時、生年十六歳にて、右の眼を射させ、其矢を拔ずして、答の矢に敵を射て、名を後代に揚ぐ、今は神といはれたる、鎌倉權五郎景政口、五代の末葉にて候云々、と見ゆれば、景政の靈を祀りしと云ふ事、古くより傅はりしと思はる、前に云所の二説、恐くは牽強附會の説なるべし、　景政は奥州の役に義家に従ひ、敵に左の眼を射られしが遂に其矢を抜ずして其敵を討て高名を顯はす、故に眼を患る者此社に祈誓するは往々其験ありと傳ふ【海道記】にも當社の名見えたり　曰、湯井の濱にしばらく休み、御靈の鳥居の前に、日を暮して若宮大路より、宿所に着ぬ云々、　文治元年八月當社鳴動するにより頼朝參詣ありて神楽を奏す　[東鑑]曰、文治元年八月廿七日午剋、御靈社鳴動、頗る如地震、此事先々爲怪之由景能驚申之、仍二品參給之處寶殿左右扉破訖、爲解謝之、被奉納御願書一通之上、巫女等面々有賜物被行御神樂之後、還御云々、【名所記】曰、御所の女房の夢に、景政と名のる老翁、告之曰、崇徳院の御崇り、世にみつ、依て今鎌倉中人多く死す、我是を防がんとすと云へり鎌倉殿傅へ聞き給ひて、諸寺諸社にて、御祈を始めらる云々　建久五年正月奉幣あり　【東鑑】曰、建久五年正月四日、甘縄宮御靈社御奉幣、八田右衛門尉知家爲御使、十一月此前濱に於て、千番小笠懸あり　十一月廿一日、於御靈前濱、有千番小笠懸、　健保三年六月叉社檀鳴動す　健保三年六月廿日、今夜子剋、御靈社鳴動、及兩三度、　建長四年一月、御所として、社前の海濱に於て七瀬祓を行はる　建長四年十一月十七日、前大膳亮爲親、奉仕御祈始事、於御靈社前海邊、勤行七瀬祓、伊勢前司行綱、沙汰雑事、周防修理亮、爲御使向其所、別當は極楽寺村成就院なり、神主は鶴岡の職掌小池新大夫兼職す、例祭九月十八日巡行の儀あり　祭祀　式鶴岡巡行の式に倣へり、祭器も鶴岡の神器に、模倣して造れり、　△末社　石上　金比羅　地神