01.村岡御霊神社

1.背景

1.1.地形

　神社の背後を東海道本線が通過し、住宅や工場が接近しています。1965年以降(昭和40年代)に変化が始まったようですが、かつての村岡の地は重なり合う岡の群れから成り立っていると云われ、台地と谷戸が入り組む起伏の多い地形だったようです。
　参考のために同一範囲の地図および1960年代と2007年以降に撮影の航空写真を添付します。

1.2.歴史

　平安時代、鎮守府将軍・平良文はこの地に城を築きますが、村岡は始まりと伝わります。村岡城址碑が、神社北側高台の公園・グラウンドの一角に建立されています。平良文は村岡一族の祖とされますが、はっきりした記録は残らないようです。

　御霊神社は940(天慶3)年に平良文が京都紙御霊神社を勧請、鎌倉権五郎景政は村岡の生まれと伝わります。

　景政は後三年の役に出陣するときに戦勝祈願し、戦いから戻って戦勝報告したと伝わります。神社東側の地続きの丘を平台と云い、後三年の役に際して源頼義が白旗を立てて軍勢を集めたので旗立山と呼ばれます。

1.３.新編相模風土記稿より

　御霊宮　村岡郷五箇村の総鎮守とす、天慶三年村岡五郎良文の勧請にして後鎌倉権五郎景政の霊を合祀して二座とし、又北條時頼が命により葛原親王・高見王・高望王を加へ総て五座を祀ると云、例祭八月十八日、社傍に小菴あり御霊菴と號す、神職は鶴岡職掌小坂伊予兼管す、(家伝に、祖は村岡次郎忠頼より出て、仁安中、當社の神職となり、世々こゝに住せしが、治承の頃、鶴岡に移りて、職掌となり、元弘中、再當所に還住し、文禄中舊に復し、雪ノ下に轉住して、今に至ると云ふ、)　
　末社　疱瘡神(景政の勧請と云ふ)　矢竹稲荷(社傍に、篠竹生ぜり、権五郎景政、鳥海弥三郎に射られし矢を爰に挿せしが、枝葉を生ぜりしなりと伝ふ)
　　巻之百三　村里部鎌倉郡巻之三十五深谷村

2.神社誌

2.1.基本情報

1.名称　：御霊神社
2.所在　：神奈川県藤沢市宮前560
3.祭神　：崇道天皇、鎌倉権五郎景政、葛原親王、高見王、高望王
4.境内社：十二天王、疱瘡神、笹折矢竹稲荷大明神・七面宮
5.祭日　：毎年九月十八日

2.2.由緒

2.2.1.社名碑より

　社名碑に刻まれた由来沿革は次のとおりです。

　御祭神崇道天皇は桓武天皇が御宇延暦十三年五月現在の京都市に御霊宮として祀り給い其の後この村岡に五郎良文公が住し天慶三年に勧請し戦勝祈願をなしたるを初めとす
　のち鎌倉権五郎景政を合せ祀り二柱たりしが北条時頼の命により葛原親王高見王高望王の三柱を加え県下に十三の分社あり
　その後村岡五ヶ村総鎮守として現在に至っている

2.2.2.藤沢市寺社建築物調査報告書２＜神社編＞より

　報告書に記載された由来沿革は次のとおりです。

　宮前の御霊神社の分社で天慶四年(941)に創建と伝わる。祭神の早良親王は村岡郷四辺を開拓し支配した相模平氏村岡良文の先祖で、良文の子孫の大庭景政(平景政・鎌倉権五郎景政)は鎌倉時代に武将として当地を治めたことから建久年間(1190～99)に当社に含祀され｡だ。
　天保六年に（１835)に社殿を改修し、平成十四年(2002)に現在の新社殿を新築した。例祭日に演奏される｢川名屋台はやしが市の指定文化財となっている。

2.3.境内社

2.3.1.疱瘡神

　疱瘡神案内は次のとおりです。

　疱瘡「天然痘」は、古くから多くの病死者が出るもっとも恐ろしい厄病とされていた。そのため石塔を立てて祀られ、疱瘡の苦しみを少しでも軽くしてもらおうとこれらに祈りを捧げていた。
　この疱瘡神は鎌倉古道の道沿いで八幡山のふもとにあったものを、鎌倉権五郎・平景正が末社として、御霊神社の境内に移したものと伝えられている。
　古老の話では、三月三日の祭の碑には紫の旗が立ち露店も出て、多くの参拝者で大変なにぎわいだったと。
　なお弥勒寺脇にも疱瘡神が祀られている。
　　　　平成二十一年三月吉日　寄贈　村岡郷土史研究会　廣田隆義

2.3.2.折笹矢竹稲荷大明神と兜松

　折笹矢竹稲荷大明神案内は次のとおりです。

　永保三年(一〇八三年)、奥州で後三年の役がおこり、その戦に陸奥守兼鎮守府将軍であった八幡太郎義家がここ御霊神社東側の旗立山にて兵を集めました。
　当時、十六歳であった鎌倉権五郎景正も初陣として参戦しましたが、奥州仙北郡金沢の柵の合戦において、敵である鳥海弥三郎の放った屋により右目を討たれました。しかし景正はその矢を引き抜いて射ち返し、みごとに討ち取ったという武勇伝が伝えられています。
　戦に勝利した景正は、ここ御霊神社に戦勝のお礼参りに訪れたとき、持ち帰ったその矢を境内にさしておいたところ、青葉が生えてきました。そこを折笹矢竹稲荷大明神として奉られています。今でも神社の裏山には矢竹が生い茂っています。
　また、その時の兜も松の木の根元に勝利の記念として埋めました。その木は後に兜松と呼ばれています。
　　平成二十二年六月吉日　　寄贈　村岡郷土史研究会　廣田隆義

3.付近の旧跡

3.1.旗立山

　神社正面から右に迂回、いわゆる女坂を進むと、中ほどに旗立山の由来碑があります。背後の細道を上ると、草生した平坦地に出ますが、樹木が繁って視界は開けません。湘南モノレール深沢駅方面から西を遠望すると、鉢を伏せたような旗立山が望めます。

旗立山の由来
　この碑の左上山頂に平坦地（平台山）が一二〇〇坪ほどあります。前九年の役（一〇五六）の出陣にあたり、源頼良しがこの山に白幡を立て軍勢を集めたことからこの地は旗立山とよばれています。
　また、その子源義家も後三年の役（一〇八六）の時に同じように白幡を立てたとされています。（其のとき村岡城主鎌倉権五郎景正が初陣としてこの戦いに参戦しました。）
　この旗立山には葛原親王（桓武天皇第五皇子）が祀られていた塚があったとも伝えられています。
　　　平成二十一年三月吉日　　寄贈　藤沢市宮前四五八番地
　　　　　元近衛歩兵第二連隊
　　　　　林　善祥　　百二歳

3.2.兜松と八ツ嶋

　神社の裏参道から鎌倉道を鎌倉方面に進むと、直ぐに工場フェンスに面した道になりますが、工場敷地内に兜松と八ツ嶋があります。フェンス際の案内は次のとおりです。

兜松と八ツ嶋
　この道は鎌倉の化粧坂から柏尾川を渡り、村岡城内に通ずる鎌倉街道の名残である。八幡太郎義家が鎮守府将軍の時、奥州に後三年の役があり、鎌倉権五郎影政も十六歳で従軍した。苦戦が続き新羅三郎義光も援軍に駆けつけた。特に仙北郡金沢棚の合戦には鳥海弥三郎に右の眼を射られ、その矢を射返して敵を討ちとったことは有名である。凱戦のあと、かねて祈願した御霊神社に戦勝のお礼参りした記念に、岩上の松の根もとに兜を埋めたのが兜松の由来である。またこの付近は新田義貞の鎌倉攻めの中心地で、鎌倉方は相模守赤橋守時で六万余騎の大群で元寇三年(一三三三)五月十八日は一日一夜のうちに六五度の合戦が行われた激戦地で、世に須崎の戦いといわれている。その時の戦死者を葬ったのが八ツ嶋である。

4.参考文献

1.「地理院地図」　
2.「新編相模風土記稿第五巻」蘆田伊人平成14年4月20日雄山閣
3.「御霊信仰と宮前御霊神社の文化財について」　藤沢市教育委員会
4.「藤沢市寺社建築物調査報告書２＜神社編＞」　藤沢市教育委員会　生涯学習課　2012年3月31日

（2021年2月6日制作、9月12日更新）