3.9.14.八聖殿
1.はじめに
八聖殿(*1)を含むは半日ほどの路上観察ならば、三渓園と組み合わせる道筋を選ぶのが代表的です。どちらを先にするかは意のままに。
八聖殿に直接向かうならば、三渓園入口バス停から案内に導かれるます。あるいは本牧車庫前バス停から向かいます。
八聖殿は本牧鼻(*2)と云われる海蝕崖の上にあります。この辺りは本牧岬の先端であり、かつて黒船を率いて来航したペリー提督は条約岬(Treaty Point)と命名します。
八聖殿は八角形の建物です。名称のとおり殿内に八聖が祀られていますが、郷土資料館として本牧の歴史が展示されています。
殿内の見学を終えたら、裏の広場から根岸湾を眺めるのも良いでしょう。埋立てで海岸線は遙か遠くに離れましたが、かつて目の前に黒船が顕れた様子を思い浮かべれば歴史も身近になりそうです。
横浜市民公園側に下りると切立つ崖が見られます。写真は2020年に平地の施設が撤去されて遮るものが無い状態の本牧鼻です。コンクリートが吹き付けられていますが、往時に近い様子と思えます。
2.昔日
2.1.建築主・安達謙蔵
八聖殿は、政治家・安達謙蔵(1864～1948)が、1933（昭和8）年に完成させます。
安達は熊本県出身の政治家、第一・二次若槻内閣の逓信・内務大臣を歴任します。1933年に実業家・小野光景(1845-1919)から付近一帯の土地を譲り受け、精神修養道場として法隆寺夢殿を模した三層楼八角形の建物を建造、開殿します。
1937(昭和12)年に横浜市へ寄贈、1973(昭和48)年に「横浜市八聖殿郷土資料館」と改名されます。
2.2.八聖人とは
八聖殿の由来でもある八聖人像は二階講堂に安置されています。各々は、著名な彫刻家の手になるものです。
親鸞 長谷秀雄(銅製)
日蓮 日名子実三(銅製)
孔子 北村西望(青銅製)
聖徳太子 朝倉文夫(白銅製)
弘法大師 長谷川桝蔵(木製)
釈迦 田島亀彦(木製)
キリスト 清水多嘉示(銅製)
ソクラテス 藤川男造(青銅製)
八聖殿は当初七聖殿で計画されたようでが、「七聖にソクラテスを加えて八聖となすべしとの議論があり、安達は各方面の学者の意見を目下徴している」との話題が記録があります。
加えて下村清時「観世音像」が展示されています。元は鶴見・花月園で展示されていたものですが、八聖殿に遷された理由は定かではありません。下村と云えば和田山に起居した下村観山が思い浮かびますが、清時は観山の実兄で、その縁があったかも知れません。
3.今日
3.1.近況
現在は、八聖人に加えて幕末から明治の本牧・根岸の様子を伝える写真など、市内で使われていた農具・漁具、本牧ゆかりの偉人などが展示されています。また近所の本牧神社の「お馬流し」のお馬さま、鶴見区生麦の神明社・道念稲荷社の「蛇も蚊も祭り」で作られる大蛇なども展示されて、横浜の伝統行事を知ることができます。
3.2.周辺の観察ポイント
三渓園側から進むと、八聖殿直前の擁壁に小プレートが貼付されています。建築家Ａ.レーモンドの代表作「ソコニーハウス」を記憶に留めるものです。残念ながら2006年に解体され、跡地は民間住宅に転じていています。
八聖殿裏に進むと小野別邸跡広場になります。往時の様子を解説する複数の案内板が設置されているので一読すれば、付近の往時の様子が知れるでしょう。改めて時の流れが感じられます。
崖下の横浜市民公園一帯はかつての海水浴場、昭和30年代中頃から埋め立てが始まり、今は様相が一変しています。往時は船上からしか見られなかった切立った海蝕崖は、ペリー提督が見た時から殆んど変わらないと思えます。
写真は、2020年に手前の施設が撤去されて更地の向うに見える本牧鼻で、コンクリートが吹き付けられているものの往時に近い様子と思えます。
4.引用
*1.「八聖殿」
*2 「名所三十六景・武蔵本牧のはな」 広重 安政５年出版 国会図書館ディジタルアーカイブ
*3.「鶴見花月園秘話」 斎藤美枝著 鶴見区文化協会発行 2007年12月28日
*4.「旧本牧スタンダード石油社宅(ソコニーハウス)の保存･活用について」
（2025年9月4日制作）