3.3.2.21.天神坂碑
1.はじめに
天神坂碑は、京急日ノ出町駅脇から細い道で丘に上る途中の小さな広場にあります。傍らに井戸らしきものもあります。
天神山とは云うものの独立した丘でなく、久保山台地東端東南向き斜面です。この辺りは吉田新田埋立の土取場の一か所で、江戸時代には往古の様相を変えている筈です。しかし現在の様子が、江戸時代の俤を留めているかは定かでありません。
2.天神坂碑
2.1.碑文
碑は上下半分に折れて修復されています。修復部分と劣化部分で一部の文字は消滅しています。なお解読困難な文字もありますが、大意は把握できます。
天神坂碑吉田愛吾樓 篆額
大森 寒泉 撰弁書
萬■■年初代吉田勘兵衛諱良信再請幕府得許
開拓武陽久良岐郡吉田新田也掘鑿太田村字
天神山■石川中村字大丸山等以填鐘形灣寛文
七年逐成爾来時世一變安政六年横濱爲貿易港
也新田亦化為市明治廿一年九代勘兵衛諱良貞
開墾南太田町字東耕地内所有地即是天神山土
採場之趾也茲新開坂路以便交通然無坂名十代
良循命曰天神坂立碑標之後偶値大震災碑倒壊
因更建碑勒■梗■如此
昭和九年九月廿五日 吉田勘兵衛良循 建立
碑文の大意は次のとおり。
「万治二年、初代勘兵衛良信は徳川幕府に武陽久良岐郡吉田新田の埋立てを再請して許を得る 太田村字天神山、石川中村字大丸山等の掘鑿を以って鐘形灣を埋立て、寛文七年に成し遂げる
時が過ぎて時世は一変 安政六年横濱は貿易港に為る 新田もまた変化して明治21年市に為る
九代勘兵衛良貞は南太田町字東耕地内所有地を開墾する すなわち天神山土採場之趾なり ここに新しい坂路を開き交通の便に供したが坂名は無かった
十代良循は天神坂立碑、標してこれを命す 大震災にて碑倒壊、よって更に建碑云々」
2.2.その他
広場には井戸跡があります。石の井桁は残りますが、内部は埋まっています。
碑の背後は擁壁ですが、材質や積み方は様々の様です。その一角にアーチ型の迫が見られ、奥に空間があるように思われますが、はっきりしたことは分かりません。
東小学校の擁壁に似たような構造が見られます。近所の人に聞いたところ、水道の秤量機があるのではないか。防空壕ではないか。あるいは地下空間があるのではないかと云われたりもします。
学校の塀際に「校庭地下の構造物」の案内が掲示されています。水道に関係ありそうですが、アーチ型の迫との関係は明確でありません。
天神坂も東小学校も上りつめると野毛山貯水池に行き着きます。現在のところ、情報はそこまでです。今後の路上観察、調査に期待しています。
3.引用
1.「ものがたり西区の今昔」 西区の今昔・編集委員会 昭和48年７月２発行
2.「東小校庭から謎の構造物 明治建造の水道設備か」タウンニュース 中区・西区版 2011年9月
（2024年9月29日制作）