3.2.37.井土ヶ谷尼将軍堂と化粧の井戸

横濱の史跡と名勝より「井土ヶ谷尼将軍堂と化粧の井戸」

　尼将軍とは頼朝の室政子のことで、井土ヶ谷村は当時尼将軍の化粧料に充てられた地である。

　同町千八十九番地西向山乗蓮寺に将軍を祭つた堂があり、参詣者多く殊に乳の出ない婦人に利益があるといふことであった。本堂裏に将軍御茶の井戸、同寺側住吉神社石段昇り口左側に将軍化粧の井戸といふ直径三尺位の井戸がある。共に今でも清水が滾々と湧出して居る。井土ヶ谷なる地名は此の井戸から出たものだとも云つて居る。尼将軍の墓は太田村境に五輪の塔あり、語伝にて文字更に彫らずと武蔵風土記に記してあるが、今はこれさへもない。

　将軍ではないが尼が化粧の水、化粧の池といふ類のものは実は全国に分布して居るものであつた。鎌倉はこの将軍の尼を始め、大磯の虎などの尼姿を、各地に伝えしめた本場であり、日本の伝説を考究する点から見ても、一の興趣を失はぬものであらうと思ふ。