3.1.31_2.4.240.ビール製造所跡
1.ビール製造所
1.1.ビール井戸
ブラフ105・122・123・240をの一帯は、ノルウェー人でアメリカ国籍取得のコープランが、ビール醸造・スプリング・ヴァレイ・ブルワリーを設立したところです。時期は定かでありませんが1871年以前のこと、横浜のビール作りでは早い時期です。
往時の一帯は天沼と呼ばれ240番に大きな池のあることが地図で確認できます。周辺の湧水がビール醸造に適していたのでしょう。
現在の山手一帯に池はありませんが、滝や湧水はあります。根岸・白滝不動尊の滝は水量減少で細くなったと伝わりますが、打越やワシン坂下では絶えることなく水が湧きでています。往時は各所に池・滝・湧水があったことでしょう。人間の活動が盛んになると台地の保水力は陰ってしまいます。閑話休題。
醸造所のあった一帯、今は横浜市立北方小学校(中区諏訪町)と隣接の麒麟園公園(中区千代崎町)です。小学校の正門脇の植込みにビール井戸があります。今なお水を湛えているかは定かでありません。
1.2.麒麟麦酒開源記念碑
公園に巨大な「麒麟麦酒開源記念碑」が建立されています。碑の案内文は次のとおりです。
麒麟麦酒開源記念碑
1870(明治3)年、アメリカ人ウィリアム・コープランドは横浜・山手にビール醸造所スプリング・バレー・ブルワリーを設立し、日本で初めて産業として継続的にビールの醸造・販売を行いました。コープランドはその功績から、「日本のビール産業の祖」と呼ばれています。
1885(明治18)年、スプリング・バレー・ブルワリーの建物と土地は、日本在住の外国人経営の会社ジャパン・ブルワリーに引き継がれ、1888(明治21)年に「キリンビール」が発売されました。そして、1907(明治40)年、ジャパン・ブルワリーの事業を引き継ぎ麒麟麦酒株式会社が創立。1923(大正12)年の関東大震災まで、この地においてビールを醸造しました。石碑はこの地がキリンビール発祥の地であることを記念して、1937(昭和12)年に建立されたものです。
※石碑建立当時は、スプリング・バレー・ブルワリーの設立は1872(明治5)年とされていましたがその後の調査で1870(明治3)年であることが判明しました。
この碑で察せられように、コープランの醸造所は幾多の経緯の末に現キリンビール(株)が醸造を継続します。同社のビール銘柄の「スプリング・ヴァレイ」には、ビール醸造の歴史が込められているものと想像しています。
1.3.文化遺跡碑
公園の小学校側にもう一つの碑が建立されています。表面に「文化遺跡 日本最初の麦酒工場」、裏面に「昭和三十七年二月十一日 Ｗ・コープランド氏の命日に建てる 横浜ペンクラブ 九一書？ 寄贈 米田吉盛 関晋三」と刻まれています。
碑文にある「日本最初の麦酒工場」は、どうも違うと現在は云われます。
日本初のビール醸造は、ブラフ46番のジャパン・ヨコハマ・ブルワリーで、1869年頃のようです。近くに池のあることが往時の地図で確認できます。ビールに限らず醸造には清浄な水が不可欠、横浜山手には豊かな地下水系を育んでいたことでしょう。
2.引用
1.「横浜市史稿・産業遍」
2.「横浜もののはじめ考 第３版」 横浜開港資料館 2010年3月31日
3.「ビールの歴史」
(2025年5月12日制作)